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高松高等裁判所 昭和48年(ラ)12号 決定 1973年5月16日

抗告人

浜村正広

右代理人

松岡一陽

抗告人から、高知地方裁判所が同庁昭和四八年(ヲ)第一二六号不動産競売開始決定に対する異議申立事件について、昭和四八年三月一二日付でした異議申立却下の決定(以下原決定という。)に対し即時抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一抗告人は「原決定を取り消し、更に相当な裁判を求める。」旨申立て、その理由として主張するところは、別紙「申立の理由」に記載のとおりである。

二抗告人の主張は要するに、本件不動産競売の基本となる抵当権の被担保債権につき、競売申立人(以下相手方という。)の申立債権が真実の債権額よりも過大であり、本件競売開始決定にも過大な債権額が記載されていて、抵当不動産の所有者等の権利を害するおそれがあり違法であるというのである。

三一件記録によると、相手方が有限会社吉村商店の株式会社高知相互銀行に対する二七、五九〇、五二五円および一、〇〇〇万円の二口の債務を、担保提供者または連帯保証人兼担保提供者としての立場から同銀行に弁済し、債権者代位によりこれらの債権とその担保である別紙目録第二記載の一、二の各抵当権とを取得したこと、相手方がこれらの債権のうち、まだ支払のない前者の債権の残額七、三〇九、一二五円(抗告人主張の(イ))、後者の債権一、〇〇〇万円(抗告人主張の(ロ))の各債権およびこれらの金額に対する代位弁済の日以後の年五分の割合による金銭債権があるものとし、別紙目録第一記載の一の土地について、右各抵当権にもとづき競売の申立をしたこと、この申立によつてなされた本件競売開始決定には抗告人主張のように、相手方の申立債権額がそのまま債権として掲記されていること、抗告人が右土地の所有権を取得したこと、相手方が前記各低当権を実行するのは代位弁済による求償金債権の実現のためであるところ、(イ)の被担保債権については抗告人主張のとおり二名の連帯保証人と相手方外一名の担保提供者(相手方は別紙目録第一記載二の土地の単独所有権および三の建物の共有持分権を担保として提供、外一名の者は同目録記載の一の土地を担保として提供)および一名の連帯保証人兼担保提供者(同目録記載の三の建物の共有持分権を担保として提供)があり、また(ロ)の被担保債権については相手方外二名のいずれも連帯保証人兼担保提供者があることはそれぞれこれを認めることができる。

右事実関係によれば、相手方が抵当不動産である同目録記載の一の土地により前記(イ)、(ロ)の被担保債権の弁済を受けることができる金額の範囲は、担保提供者または連帯保証人兼担保提供者たる地位にもとづいて代位弁済した相手方と抵当不動産の第三取得者である抗告人との関係において、民法五〇一条五号の趣旨により定まる求償権の範囲に限られることとなるから、相手方の競売申立債権額および本件競売開始決定に掲げられた債権額が真実の債権額よりはるかに過大であることは否定できない。

しかし他方、競売申立債権額および競売開始決定表示の債権額が過大ではあつても、前記事実関係から推して、競売の基本となる債権が存在することもまた否定できない。

ところで、抵当権実行による任意競売手続において、競売開始決定に競売の原因たる事由として、元本、利息、損害金といつた申立債権額を掲げる趣旨は、単に抵当権の被担保債権を特定認識するための方法に尽きるものと解すべきではないけれども、申立債権額が競売開始決定に掲げられることにより終局的に被担保債権として確定されるものでもないのであり、抵当権の被担保債権が一部でも存在する以上は、特段の事情がない限り競売手続を進めるべきものである。

したがつて、申立債権額ないしは競売開始決定表示の債権額と真実の債権額とが相違してもこれにより競売開始決定が違法になることは原則としてないというべきである。

本件においては、前述のとおり競売の基本となる被担保債権がたとえ申立債権額の一部ではあつても存在するのであるし、競売の目的たる不動産が別紙目録第一記載の一の土地一筆だけであつて、過剰競売ということも問題にならない場合であり、外にも競売開始決定を違法とすべき例外的な事由も見当らないのであるから、相手方の申立債権額ないしは競売開始決定表示の債権額が真実の債権額より過大であることは本件競売開始決定に対する異議の事由とするに適しないものである。

抗告人は申立債権額および競売開始決定表示の債権額が過大であることにより、競売代金から弁済した残余の交付を受けるべき立場にある競売目的物件の所有者等の権利が害されるおそれがあるとして、債権額の相違も競売開始決定に対する異議の事由とすべきであると主張するけれども、このような不利益を受ける者があるとしてもそれは別途に救済されるべきものである。

そうだとすると、本件競売開始決定に対してした抗告人の異議申立は理由がなく、これを却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(合田得太郎 伊藤豊治 石田真)

申立の理由・目録(一)、(二)<省略>

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